随分と前の話になりますが、
学生の頃、当時の友人に誘われて1日だけのアルバイトをしたことがあります
彼は、学校そっちのけで楽器を弾いていました。ベーシストでした
そんな友人とやったのは、ライブのセッティングやバックステージのサポートでした
演奏するのは、世界的にも名を知られるサックス奏者の渡辺貞夫さんでした
渡辺さんは80をゆうに越える今でも、現役のプレイヤーとしてライブ活動をおこなっています
しかし考えてみると、彼が吹くサックスという楽器には、体力、とりわけ肺活量が必要です
今も現役でステージに立つために、体作りをしているようです
アルバイトをしたのは、今からずいぶん前になりますが、とはいえ若手世代から比べると、どうしても身体的にはピークアウトせざるをえない年代。人間ですから
そんなライブをバックステージから見て感じたのは、渡辺さんが完全に「場」の空気を支配していたこと
サックスを吹き続けているわけではないのです。曲の途中でも舞台袖に戻って、水を飲んだりしている。それでも、「場」がまったく壊れない
自分のパートを演奏し、あとは「若いメンバーに任せてあるから」とでも言わんばかりに、絶妙に間を取る
そんな彼の演奏スタイルが、完璧に会場を、彼のオーラで覆っていました
なぜ、こんなことができるのか?
まず、彼が長年にわたってサックス演奏を追及してきたというひたむきさが為せる技だと考えます。
そのような人を、周囲はリスペクトせざるをえません
そして、多分間違いないと思いますが、彼は演奏しているクインテットのメンバーや聴衆をリスペクトしている
そうでなければ、あのような居心地の良いステージというのは作れないと感じます
僕は、このライブにこそ「オーラ」の秘密があると考えています
自分に対する、ひたむきな取り組み
他者に対するリスペクト
この二つが、深ければ深いほど、オーラは強い色を帯びるのではないか
バイトのあと、友人とコンビニで安いウィスキーを買って、彼のアパートで飲んだのを覚えています
もちろん、話したのはライブのことです
もう、友人とは長い間連絡を取っていません
どこに住んでいるのか、結婚したりしているのか、家庭があるのか、そして今でもベースを弾いているのか。分かりません
元気でいてくれれば良いと思います
僕は、あの日に感じた空気感を忘れることは、多分ないだろうと思います